‘Inflation/インフレ’
目標下回るインフレをFRBは懸念
米FOMC議事録に利上げ時期はまだ明記されていないものの、議事録から三つの重要ポイントを読み取る事ができる。まず第一に、FRBは経済先行きに自信を持っている点。第二に、ある委員が「ConsiderableTime」(相当の期間)というフレーズの削除を提案している点。そして第三に、FRBがデフレ圧力の高まりを懸念している点だ。議事録において、FRBは諸外国経済の弱化が米国経済に影響を及ぼすことは無いとしており、米国経済の先行きに対するFRBの自信に満ちた姿勢が反映されている。少し前に、市場では欧州や日本等のエリアの下振れが米国経済の足かせとなり、FRBの利上げ対応に影響する可能性が懸念されていたが、これらは余計な懸念となったようだ。 議会証言の利用されている言葉に注目 FRBの議事録で「ConsiderableTime」というフレーズを使用してからかなりの期間が経過しており、もしこの先の議会証言で「ConsiderableTime」が消失する事があれば、FRBの政策金利に対する考えに変化が起き、米利上げの可能性が高まるという意味合いとなろう。「ConsiderableTime」の削除を支持する委員の中で、投票権を持つ者は一名しかおらず、もしこの先より多くの投票権を持つ委員が削除を支持した場合、米国が利上げに踏み切る期日が近づいているとみて間違いないだろう。これまでの流れを見ると、金融政策を方向転換する際、FRBはまず先に議会証言における言い回しを修正してきた。この先の言い回しの変化に注意しておく事は、投資家にとって米利上げの行方を理解するヒントとなろう。 世界の低いインフレ率が米国経済政策に与える影響 今回のFOMC議事録では、予測を下回るインフレ率に対するFRBの懸念が示されている。全世界を総合的に見ると、欧州はデフレリスクに直面し、中国はインフレ率が2%に届かず、加えて原油価格も押し下がっている。こういった状況から、米国の物価はFRBの目標水準に達し難くなっている。予測を下回るインフレ率は、消費者の長期的インフレ観測に影響すると見られ、消費行動の重石となろう。米国経済はこれまでずっと国内の消費に依存してきたため、もし米国人の消費意欲が低下でもすると、経済パフォーマンスは否応なく低下する。米国の雇用市場は回復しているものの、まだ物価指数に明らかな上昇圧力は見られず、現段階でFRBの利上げ時期がいつになるのかは明言し難い。 2014年11月22日
貿易黒字の増加で高まる人民元切り上げ圧力
中国7月対外輸出は前年比14.5%増と急成長し、市場予想の7.5%増を遥かに上回った。 しかし、輸入は1.6%減となり、市場予想を下回っている。輸出の拡大は周辺国経済の回復が続いていることが反映されており、輸入総額の減少は中国の対外需要がないことを表している。 過去数カ月、米・非農業部門雇用者数の増加は、月あたり20万人を上回っており、現地の労働市場の好転が継続し、米国が牽引し中国本土の輸出はこの先数カ月拡大を維持できる見通しだ。 最近では欧米とロシアの制裁の応酬が激しくなってきており関係が悪化するにつれ、冷戦時代の日本のように、ロシアおよび西側諸国は中国を中立国として選択してき中国産を輸入する可能性があるため、今後の中国本土の輸出セクターを下支えると見られる。 人民元切り上げ圧力必至 輸入面では、資本過剰経済の過剰在庫による制限を受けるため、この先数カ月の輸入指標で顕著な回復が見られることも無いだろう。 中国本土で原材料が過剰在庫として問題となっており、経済成長の近年のペースダウンが償却を先送りさせている。 過剰を改善させる前に、中国は基本的に外国から大量に原材料を輸入するべきでは無いだろう。 在庫要因のほか、中国では政治の汚職撲滅のため厳しい取締りを実施しており、改革を進めるなかで癒着体質のある企業の景気変動などが発生し、こうした要因も外国からの輸入に影響を及ぼすであろう。 この先数カ月に「強い輸出、弱い輸入」の貿易セクター見られ、「人民元切り上げでは、巨大な貿易黒字を維持すると」の圧力が高まるのは必然となる。 7月のインフレ率は6月と同様の2.3% インフレに関して、中国7月のインフレ率は6月と同じく2.3%なり、過去数カ月、中国本土は洪水や台風などの自然災害にみまわれておらず、仮に、現状を維持できれば、国内食品価格の安定維持が見込めるため、インフレ率全体に好影響を与えると見られる。 インフレ圧力が強まらない間に、中国人民銀行(中央銀行)による更なる金融緩和や、ひいては預金準備金率の引き下げを期待する声もある。 李克強首相は一貫して「時宜を得た穏やかな循環的微調整」による経済コントロールを強調しているため、たとえ国内にインフレ問題が再発しようと、人民銀行が全面的に預金準備金率を引き下げる可能性は低いだろう。 2014年8月13日
日本第2四半期GDP成長率-7.2%予想
「アベノミクス」にひた走っていた日本経済が第2四半期に大幅な国内総生産(GDP)のマイナス成長を記録し、停滞するとの見通しが出てきた。 先日のBloomberg(ブルームバーグ)では-10%、日本経済新聞では7日前期比年率換算-7.2%と大幅な下落を報じた。内閣府が13日に発表する数値が予想と同等となる場合、日本経済は、2012年第3四半期以来、7四半期ぶりのマイナス成長を記録することになるほか、2009年リーマンショックと同等の下落幅となり、景気サイクルの不況(Recession)に陥ることになる。 日本経済の第2四半期の低調、は4月1日消費税引き上げ前に、消費者の買いだめ需要が追い込まれた第1四半期の+6.7%の反転の意味がああるものの、自動車、家電製品など高価な商品を第1四半期に集中的に売れていたため、第2四半期には需要が大幅に減少、輸入価格と総額の上昇によるインフレが要因となる。民間調査機関の推算によると、第2四半期の個人消費は前期比マイナス4.2%減少と予想されている。 日本政府は、第2四半期のマイナス成長にもかかわらず、長期的には経済が着実に成長するという麻生太郎副総理兼財務・金融相は5日の記者会見で、「第1四半期に比べて(第2四半期が)落ちるのは当たり前の話であり、驚くことはない」とした。 2014年8月7日
マイナス金利政策も金融市場の刺激に疑問
市場の予想通り、ECB(欧州中央銀行)はマイナス金利政策の実施に踏み切った。加えて大規模な量的緩和を行うとし、手始めの規模は4,000億ユーロになると見られる。ECBによる今回の動きには二つの狙いがある。第一に、ユーロ圏経済のデフレ回避。そして第二に、銀行から域内企業への銀行融資の促進だ。過去数年に渡り、欧州経済は債務問題による深刻なダメージを受け、物価も経済下落と共に低水準を推移してきた。昨年から底打ちの兆しを見せているものの、未だ物価上昇が見られず、ユーロ圏のインフレ率は長期にわたり1%未満となっている。事実上、インフレ率1%未満というのはマイナスに陥っている状態と大差ない。大雑把に言ってしまえば、ユーロ圏はすでにデフレに陥っているのだ。 経済がデフレという困難な局面から脱する為に、中央銀行は常々量的金融緩和策を採択してきた。もしこの先もユーロ圏の物価に動きが見られない場合、ECBが更に政策金利を引き下げ、大規模な量的緩和政策を実施する可能性は非常に高い。現在、ユーロ圏の失業率は非常に高い水準が続いており、多くの労働者が職を得られない状況下で物価上昇を試みるは口で言うほど容易ではない。それゆえ、大規模な量的緩和策の実施に加えて、景気刺激対策を打ち出すことも非常に重要となろう。しかし、各国の財政難がネックとなり、現段階で欧州PIIGS5カ国は大規模な雇用対策を行う財源はないに等しい。PIIGS各国の財政状況が好転するまで、デフレ回避の責任は主にECBの役目となろう。 銀行融資を促進するのは、マイナス金利政策の目的の1つであるが、銀行の融資姿勢が必ずしも中央銀行の政策を受けて変化するとは限らない。銀行が融資を行うか否かは景気動向及び借入需要に左右される。もし経済が活発化し借入需要が高まれば、銀行が資金を中央銀行に預けておくことはないだろう。銀行がひたすら資金を中央銀行に預けているのは、ユーロ圏における借入需要が非常に弱々しいことを物語っており、借入需要が増えない限り、マイナス金利政策がもたらす効果は、銀行が準備金の余剰を取り崩すにとどまるであろう。 2014年6月9日
米失業率による利上げは中港経済にとって悪材料
4月の米国失業率は6.3%に低下、非農業部門就業者数(Nonfarm payroll employment)は前月比約28.8万人増と大幅な上昇となり、いずれの指標も市場予想を上回った。多くの人々が職を得たものの、長期失業者数も多い。一般的に、労働市場から長期に渡り職を得られない人はますます就業は難しいと言われており、米国は指標に反映しきれていない失業問題を抱えている可能性がある。今年初め、米国は深刻な寒波に見舞われ、経済活動に一定の影響を及ぼした。天候が安定するにつれ、経済活動も正常に回復したため、4月の非農業部門就業者数の大幅増の要因になったと見られる。指数が天候の影響を受けたかどうかに関わらず、28万人以上という雇用者数の増加は間違いなくインパクトとのある数値と言える。米雇用統計の発表後、米国会が利上げを早めるか否に市場の注目が集まっている。 イエレン氏が何度も表明しているように、米FRBは単に失業率データ如何で利上げ時期を決定する事はなく、長期失業の状況や、不完全雇用率、インフレ率などの局面からも要因を考慮するとしている。多くの米国人が長期にわたり職を得られず雇用市場から離脱しているため、失業率が6.3%に低下したものの、早期利上げに踏み切るにはまだ後押しが足りないと見られる。しかし、もし今後も非農業部門雇用者数が毎月20万人以上の増加となれば、FRBが早期利上げに踏み切る可能性が出てくるはずだ。なぜなら、徐々に多くの人々が職を得られるようになった際、個人の消費意欲が増加し、物価上昇圧力が生まれてくる。そこで物価の安定を確保するべく、FRBは早めの利上げに迫られるであろう。 香港ドルは米ドルペッグ制:リンクド為替相場制度による制限を受けるため、ひとたび米国が早期利上げとなれば、香港も追随して利上げとなる可能性が極めて高く、資産価値は否応無く圧力を受けよう。また香港だけではなく、中国本土も同様に圧力を受けることになる。ここ数カ月、人民元は続落傾向にあり、中国から資本が流出しつつある事が反映されている。もし米国の利上げ圧力が増せば、より多くの資本が中国本土から流出するであろう。中国本土の不動産市場ではすでに調整が見られ、加えて中国人民銀行(中央銀行)が再び金融引締め策を実施していることから、より多くの資金流出が上述の状況を悪化させている。中国・香港にとって、米国の早期利上げは確実に悪材料なのだ。 2014年5月5日
ブラジルのワールドカップ開催と経済
ブラジルでは2カ月後のワールドカップ開催が迫る。ワールドカップ効果が疲弊したブラジル経済を刺激できるか否か、多くの投資家が注目している。ワールドカップ開催に向けて、ブラジル政府はインフラ整備や建設事業を盛んに行い、施設建設だけですでに38億米ドル近くの支出となり、この金額は当初の予算を遥かに上回っている。このほか、政府はワールドカップの特需に対応するべく国内の多くの空港で拡張工事も行っている。政府がインフラや施設の整備に多大な費用をばらまいているものの、進捗状況や品質水準が懸念されている。少し前の報道では、試合会場施設の水漏れ問題や、多くの空港の拡張工事完了がワールドカップ終了後となってしまう可能性が伝えられており、ワールドカップ開催時の観光客受入能力に多大な影響が出ると見られる。もしインフラ及び施設が整備できなかった場合、ワールドカップがブラジルにもたらすと見られていたリターンは期待通りとは行かないだろう。 インフレと経済弱化の影響を同時に受ける中、ブラジル国民の不満は日増しに高まっており、反対デモが相次いでいる。ある調査では、インタビューを受けたブラジル人の多くが政府によるバラマキに反対しており、国民は政府のリソースである税金を貧困問題改善に用いるべきだと考えている。ブラジルでは所得格差問題が深刻化しており、富裕層と貧困層の収入差は100倍を越える。このほか、政府の歳入はGDPの3割余りに相等し、中産階級への圧力は極めて大きい。国民の不満が高まり社会全体が揺らいでいるため、個人の身の安全が脅威に晒される可能性が懸念される事から、外国人旅行客のワールドカップ観戦や観光のためにブラジルへ来ようとする意欲にダメージを受ける可能性がある。 上述のような様々な問題に巻き込まれるため、今回のワールドカップの経済効果に対し過度な期待を寄せないほうが良いだろう。しかし、もしブラジルがワールドカップで優勝した場合、歓喜情緒がブラジル経済の短期パフォーマンスにとって好材料となろう。ある分析では、大規模なスポーツイベントで優勝を納めた国家では、喜びに沸く雰囲気が社会的結束を後押しし、短期的な経済蜜月期をもたらすと示している。つまり、ブラジルの試合成績如何が現地経済に一定の影響を及ぼすということだ。 2014年4月25日